社会的養護自立支援拠点の設置を要望
【背景】
① 虐待相談件数の増加
社会的養護を必要とする子どもたちの多くが、保護者からの虐待などの不適切な養育を受けてきた経験をもち、こども家庭庁の発表によると、令和5年度の全国233ヶ所の児童相談所における児童虐待相談対応件数は225,509件と年々増加しています。秋田県では、634件(前年比10%増)と全国平均では5%増の中では、とりわけ増加傾向が大きくある状況です。その中には、身体的暴力以外にも、性的虐待、暴言等による心理的虐待や、適切な衣食住を経験できない等のネグレクトも含まれます。特に近年は、身体的虐待、ネグレクトは減少傾向にある中で、心理的虐待に関する相談件数も急増し、かつ相談件数の6割と最も多い虐待です。背景には、面前DVや冷淡な態度をとる、隔離する、利己的に利用する、無視をするなども含まれており、機能不全家族が増加する傾向にあります。
② 当法人の活動により見えてきたニーズ
当法人では、秋田県内の児童養護施設を出たあと、頼る人がいない状態から、いろいろな困難に抱え、相談や一時住居の提供など、法人として対応するケースが増えています。中には、児童養護施設や里親家庭出身者だけでなく、措置歴も一時保護歴もない若者も支援対象者としてサポートを実施しています。令和6年度では、45人の若者のサポートを実施してきました。
当法人が支援するケースでは、身元を保証してくれる人もなく、施設出身者同士でお互いが緊急連絡先となり、なんとか住む所を確保し、日雇いや工事現場で寝泊まりしながら、各地を転々している若者が多いです。「住む所がない」とのSOSを受け、緊急宿泊所へ受入、生活保護申請をし、アパートを紹介して自立に向けた支援をしていても、途中でいなくなるケースもあります。施設出身者でなくとも、親に頼れない多くの若者と関わってきました。
当法人が実施した、児童養護施設の職員への聞き取りやアンケート(別に添付します)でも、退所後の様子が分からなく、気になっているが、自分たちではその後までケアすることが困難だと感じている。退所後社会に出てから、支援できる機関ができることを望んでいる。との回答が数多くあります。
社会的養護出身の若者だけでなく、機能不全家庭で育った若者には、他人を頼ることができず、相談もできないままに困難な状況に陥るケースが多く、そういった若者に、関係性を構築しながら、居住支援、生活のために必要な物品等の支援を行いながら、ライフスキルトレーニングを行い、若者が意思形成、意見表明、実現への経過を辿る過程には、根気がいる伴走支援が必要です。
③ 社会的養護自立支援拠点事業の地域間格差
児童福祉法に明記された事業になったことで、支援を必要とする若者が全国のどこに住んでいても地域の拠点事業にアクセスし、支援を受けることが出来る状態になることが期待されます。一方で、秋田県は令和7年度の「秋田県社会的養護推進計画」においては、自立支援を必要とする社会的養護経験者等数の見込みが年間で6名、社会的養護自立支援拠点については、「設置の要否等について検討」とされていますが、前述の通り、当法人では、年間40人の若者をサポートしており、現段階でも見込み数と大きな乖離があります。
現在、こども家庭庁の資料によると、社会的養護自立支援拠点事業の令和7年1月1日時点における実施状況は55自治体、58カ所で実施されています。東北地方では、秋田県、山形県が未設置となっており、支援を必要とする若者にとって、地域格差が生じています。
出所)アフターケア事業全国ネットワークえんじゅ(2024)「都道府県に関するヒヤリング調査
【要望】6月に秋田県知事に社会的養護自立支援拠点の設置を要望しました。
令和4年4月施行の児童福祉法にて、児童自立生活援助事業が拡充され、社会的養護下の子ども、若者が20歳を過ぎても支援が受けられるようになったことは、大きな進展でした。
令和6年5月からは、社会的養護自立支援拠点事業が創設され、これまでの社会的養護出身者(ケアリーバー)ほかに、社会的養護への措置や一時保護歴がなくとも、虐待経験がありながらもこれまで公的支援につながらなかった者等であっても、支援が必要と認められる若者も、社会的養護自立拠点において支援できるようになりました。しかしながら、秋田県には社会的養護自立支援拠点が設置されておらず、利用する権利がある子ども・若者が必要に応じて利用出来る状態にありません。対象を社会的養護措置歴、一時保護歴がある人に限定せず、虐待等の困難家庭環境にありながら保護されたことがない若者への支援も対象となりますが、社会的養護自立支援拠点がないことで、困難な状況にある若者たちに対応出来ないことに直面しています。
① 社会的養護自立支援の体制整備を要望します。
困難を抱える若者への支援は、住むところがない、金銭トラブル、身元保証人がいないので住居を探せない、望まない妊娠、頼る大人がいない等、日々相談が寄せられ、生きていくために困難な現状に直面しているケースが多く寄せられます。
当法人においては、保証人等がたてられず、現在就労していないなどの理由で住まいを確保できない若者に対して、緊急シェルターを2ヶ所稼働させ、若者を受け入れ、生活保護の手続き、就労に向けたライフスキルトレーニング、安定した住居の確保などを安心安全な環境で行えるよう居住支援を行っています。
これは、社会的養護自立支援拠点事業として求められている機能である「居場所の提供」「相談支援」「専門機関への繋ぎ」「一時的住まいの提供(任意)」を全て行なっている状況にあります。一民間団体として、若者の支援を行なっていくには、団体の運営体制としても限界があり、支援を必要とする若者がいても、継続的な支援を行なっていくことができません。社会的養護自立支援拠点の設置及び、現状のニーズに沿った支援を実施できるだけの体制の整備が急務です
最後に
社会的養護は「子どもの最善の利益のために」という考え方と、「社会全体で子どもを育む」という考え方が基本理念としていることから、その目的は、「保護者の適切な養育を受けられない子どもを、社会の公的責任で保護養育し、子どもが心身ともに健康に育つ基本的な権利を保障すること」と考えられています。保護者のない児童、被虐待児など家庭環境上養護を必要とする児童に対し、公的な責任として、社会的に養護を必要としている対象児童は、約4万2千人。人口減少が加速する秋田県でも現在児童養護施設で暮らす子どもは174人。施設を退所し、頼る人もなく、困難を抱えている若者支援にかかわってきました。
秋田県にも、社会的養護経験者及び、親を頼ることのできない若者が多く存在しています。どうか、秋田県としても「社会的養護自立支援拠点」を設置いただき、秋田県の子ども・若者が安心して育つことのできる環境整備が必要です
【秋田たすけあいネットあゆむの現在の実施事業】
居場所の提供
2024年4月から休眠預金事業の採択を受け、困難を抱えた若者支援に力をいれています。2025年4月に秋田市山王三丁目3-22「ハニカムハウス」を開所。
居場所とカフェを設置。
企業、地域の方に困難を抱えた若者に状況を知ってもらう機会を増やしています。また、勉強会を開催し、当事者の声や児童養護施設の職員による現場の声を聞き、社会的養護が必要な若者への支援につないでいます。
相談支援
居場所での相談の他、月曜から金曜10:00から17:00、金曜から日曜20:00から24:00のLINE相談を実施。メールでも受付けています。資格をもった専門支援スタッフで対応をしています。
専門機関へつなぐ
相談内容によって専門期間へつなぎます。また、緊急な場合には、警察や行政などにつなぐことも、今後増えていくだろうと思います。様々な制度や資源を活用してその人の困りごとを解決していくことを目指しています。
一時的住まいの提供
「仕事を辞めて寮を出なければいけない」「家賃滞納でアパートを追い出されてしまった」「パートナーのDVから逃げたい」こうした相談に対応するため、秋田市内に2カ所、緊急シェルターを開所しています。保証人や頼れる人がいない場合、サブリース型のアパートへの入居も可能です。さまざまケースに対応できる場を整えました。
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